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一次創作、二次創作などを載せております。
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 銀髪が躍動し、ダンダンダンと小気味良い音が続く。

紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の投擲する姿は見事であった。

彼女は間髪入れずナイフを投げ続ける。
あたかも五本のナイフが無限にあるかのように。

投げられたナイフは標的に刺さったかと思うと、
次の瞬間には彼女の手元に戻っており再び投擲される。


その奇術のタネも仕掛けも知っていながら、
森近霖之助は手際の良さに感嘆の声をあげた。

「お見事」

賛辞の言葉に霖之助のほうを向き軽く会釈をすると
また投擲を始める。


霖之助は飽きることなくその姿を眺めていた。

 

しばらくして満足したのか彼女はナイフを持って霖之助の元へ戻ってきた。

「いかがだっただろうか?」
「大丈夫です」

激しい運動後にも関わらず息を切らすことなくいつもの無表情。

「御幾らでしょうか?」
「何のことだい?」
「不良品は一本だったはずです」

残りは買います、という咲夜の言葉を無視して霖之助はゴホンと咳払いをした。

草場から包装された箱を取り出し咲夜へ渡す。

これは? という問いに菓子折りとして銘酒を用意したんだ、と答える。

「五本のナイフとこれを、ささやかながらお詫びの印として受け取ってもらえないだろうか」

12本セットのうち1本が、ナイフはナイフでもバターすら切れないような代物だったのだ。
いわば不良品。

謝罪のつもりで来たのだが受け取ってもらえない。

「対価以上の物は頂けません」

きっぱりと断られた。

「なぜここまでしてくださるのですか?」

困ったな、と霖之助は頭を掻く。

言えない。

その品物が破格の値段で手に入れたもので、
思わぬ利益に商品の確認を徹底しなかった罪悪感からの行動だなんて言えない。


 霖之助は疑惑の視線に耐えかね、頭の隅に転がる言葉を口にした。


「自分の好きって気持ちを、人の幸せにまで昇華できる人になりたいんだ」


 言ってすぐ、しまったと思った。
彼女は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてこちらを見つめている。

我ながらなんと青臭く、うさんくさいことを口走ってしまったのか。

けれど言った手前ここで引くわけにはいかない。

言葉は形は見えずとも確かに存在する。
一度口に出した以上その責任を取らねばならない。

開き直りにも近い気持ちで霖之助は彼女を見つめ返した。

そして勢いで詫びの品を渡す。

さっきの拒絶が嘘のようにあっさりと彼女はその箱を受け入れる。

視線が交差し、咲夜は顔を伏せた。
笑いを隠しているのかもしれない。


沈黙があたりを包む。
風が吹き抜け、草木のざわめきがやけに大きく聞えた。


 顔を下に向けたまま咲夜は言った。

「……本気にしますよ?」

疑われている。

確かに商品の確認を怠り不良品を出した者が偉そうに言えることではないな、
と苦笑する。

それに青臭く、歯の浮くような台詞だ。
言葉にしたのは無粋だったかもしれない。

でも本当のことでもある。

自分の骨董品が好きだということが他にそれを求める人々の幸せになれたらという思いが、香霖堂を創めたきっかけの一つなのだ。

今回は不甲斐ない所を見せてしまったが、気持ちは確かにあるのだ。


「僕は本気だ」

彼女は顔を上げない。

「今夜、お時間ありますか?」
「大丈夫だよ」

まだ顔を上げない。

「ではこれはその時にお願いします」

言葉の意味を汲み取れず、首をかしげながら彼女が押しだした箱を受け取る。

彼女はようやく顔を上げ、霖之助はあることに気がついた。

驚いたことに彼女の目は潤み頬は赤く染まっている。

 「今宵、戌の刻にお伺いします」

それだけ言うと咲夜は足早で霖之助の脇をすり抜けて紅魔館へ向かう。


少しして彼女はふと立ち止まった。
ぱっと振り返り一呼吸すると

「……これが私の答えです」

決して大きな声では無いがはっきりと言って、
 今度は振り向くことなく走って行ってしまった。

 
後に残った霖之助は彼女の後姿を見送るばかりだった。




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プロフィール
HN:
森野 啓臣
性別:
男性
趣味:
小説を読んだり書いたり。
自己紹介:

学生の日常を中心にした一次創作と、東方(主に森近霖之助と彼を慕う少女達)の二次創作を載せていきます。

個人的に小説は読んで下さる方がいて初めて成立すると思います。
読者様への感謝を忘れず、読むことに値する文章を目標に精進します。
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